まさかの備え、緊急一時帰国費用特約

2020年3月14日

一般の海外旅行保険は、比較的短い海外滞在を対象とした保険になっていますので、緊急一時帰国費用の特約をつけることはあまりありません。しかし、海外留学や海外赴任を対象とした保険であれば、長期間の海外滞在を前提としているため、緊急一時帰国費用特約を付帯するかどうか考える必要があります。

緊急一時帰国費用特約は、家族の不幸があった場合などで、急遽一時帰国する必要が生じた際に、交通費などの費用を補償するものとなります。通常、急な帰国となると、航空券が割高なものしか手配できないことになりますので、かなりの出費を強いられます。このため、緊急一時帰国費用特約を付けておいた方が良いのですが、保険料が比較的高額になるため、どうするか、迷われる方が多いかと思います。

私たちは、TABIHISAともども家族で3年間ほど東南アジアに駐在していたことがありますので、そのときの経験を元に、どのような時に補償を受けることができるのかどこまで保険金でまかなわれるのか、ご紹介したいと思います。

家族に不幸があったときには、あわててバタバタしてしまい、保険金でどこまでまかなわれるのか気にする余裕なんてありませんから、緊急一時帰国費用特約がどういうものなのか予習しておくと、いざというときに慌てなくてすみます。

どのような場合に補償がでるのか

私たちが当時利用していた三井住友海上の海外赴任者保険では、「帰国対象者が、次のいずれかの事由により緊急に一時帰国したために、保険契約者、帰国対象者がその費用を負担した場合」とされています。

  • 保険期間中かつ海外渡航期間中に、帰国対象者の配偶者または帰国対象者の2親等内の親族が死亡した場合
  • 保険期間中かつ海外渡航期間中に、帰国対象者の配偶者または帰国対象者の2親等内の親族が危篤となった場合
  • 保険期間中かつ海外渡航期間中に、帰国対象者の配偶者または帰国対象者の 2親等内の親族が搭乗している航空機・船舶が行方不明または遭難した場合

つまり、ご家族が亡くなった場合か、ご家族が危篤となった場合が対象となるのですが、それぞれの場合について詳しくご説明したいと思います。

ご家族の範囲

まず、対象となるご家族は、保険に入っている本人または配偶者の2親等内の親族となります。つまり、保険に加入している方から見たときに、ご自身の両親と祖父母、そして、配偶者の両親と祖父母が対象となることになります。また、ご自身の兄弟姉妹と配偶者の兄弟姉妹も対象となりますし、日本に残している別居のお子様がいれば、対象となります。この2親等内の親族ですが、同居しているか、扶養しているかは問われません。

保険会社は、戸籍を元に親族関係を確認することになりますので、例えば祖父母の場合には、自分自身の戸籍で自分と親の関係を確認した上で、親の戸籍で親と祖父母との関係を確認することになりますので、自分自身の戸籍と親の戸籍、2通の戸籍が必要となります。

ご家族が亡くなった場合

ご家族が亡くなった場合ですが、そのご家族が、日本を出国するより前から持病を抱えている場合、その持病を原因として亡くなった場合には、保険の対象となりません

つまり、がんなどの病気で祖父母が入院しているので、いざというときに備えて緊急一時帰国費用の特約をつけておこう、と考えたとしても、日本を出国するより前にがんになっているのであれば、そのがんが原因で亡くなった場合には、保険金は支払われないことになりますので、注意が必要です。このためこの特約の出番は、急な病気や事故などで亡くなった場合や、老衰で亡くなった場合などに限られてくることになります。

高齢になれば誰しも持病の一つや二つ抱えていると思いますのが、亡くなった原因として、持病が原因なのか、それとも老衰なのか、保険会社の判断は、死亡診断書に記載されている内容に基づいて行われることになります。仮に持病を抱えていたとしても、死因が老衰とだけ明記されていれば、持病とは関係のない死因だと考えられますので、通常は保険金の対象となります。

ご家族が危篤になった場合

緊急一時帰国費用特約は、ご家族が危篤になった場合にも適用があります。ただ、その条件はやや厳しく、危篤となったことを示す医師の診断書が必要となります。

ドラマでは、医師が余命数ヶ月などと告げる場面をよく見ますが、これを保険の対象とするためには、保険会社に書面で提出する必要があるので、医師に書面にしてもらう必要があります。ただ、危篤で余命数日という診断は、確実に当たるとは限りませんので、書面にして欲しいと医師にお願いしても、医師によっては、責任問題を回避するため拒否されることがあるようです。

どのような費用が対象となるのか

私たちが利用していた三井住友海上では、「緊急一時帰国費用とは、緊急に一時帰国したことによって保険契約者、帰国対象者が負担した次の費用のうち、社会通念上妥当な金額をいいます。」とされています。

  • 一時帰国に要する通常の経路による航空運賃等交通費(往復運賃)
  • 一時帰国の行程および一時帰国した地における宿泊施設の客室料(14日分まで)
  • 諸雑費(国際電話料等通信費、渡航手続費、一時帰国した地における交通費等をいいます。)

日本に帰るための往復の航空券は当然に対象となるのですが、それ以外にどこまで対象となるのか、実例を元に具体的にご説明します。

帰国する家族のうち、誰の費用が対象となるのか

2親等内の親族に不幸があった場合などに適用されることとなりますので、保険に入っている本人や、その配偶者の交通費等が補償範囲に入ることは当然だと思います。しかし、保険に入っている方の子供はどうでしょうか。

例えば、私の祖父に不幸があったとき、私の子供から見ると、ひいおじいちゃんに不幸があったことになりますので、その関係は3親等です。

このような場合、ファミリープランのような形で、海外で一緒に生活している家族を保険の対象としていれば子供の交通費等も補償範囲となりますので、私の場合、たびひさ(中)、たびひさ(小)を含む4人分の交通費が保険金でまかなわれました。

2歳未満の乳幼児は、大人の膝の上であれば1席分の座席を用意しなくても国際線に乗ることができます。たびひさ(小)は当時1歳だったので、たびひさ(小)の座席の扱いをどうするべきか心配になったのですが、領収書さえあれば、膝の上であろうとも、1席分の座席を用意しようと、どちらでも保険金の対象となります。

新幹線も同様なので、未就学児は大人の膝の上であれば、子供料金を払わなくても新幹線に乗ることができるのですが、未就学児に新幹線のチケットを購入したとしても、領収書があれば保険金の対象となります。

日本往復の国際線航空券

原則として、エコノミークラスの航空券が保険金の対象となるのですが、ノーマル運賃なのか、ディスカウント運賃なのかは問いません。保険金の上限額まで補償されますので、日本からの距離に応じた保険金額を設定する必要があります。

ビジネスクラスは、エコノミークラスが満席で搭乗できなかった場合には、保険金の対象となります。しかし、日本に帰国する航空会社は複数あり得ますし、エコノミークラスが満席だという証明も難しそうなので、ビジネスクラスしかないという場合には、きちんと保険の適用があるのかどうか確認した方が良いです。

では、プレミアムエコノミーはどうでしょうか。

私たちは、JALのプレミアムエコノミーがディスカウント運賃でわりと安かったので、プレミアムエコノミーで日本往復したのですが、プレミアムエコノミーであっても保険金の対象となりました。東南アジアと日本とのフライトは、オーバーナイトのフライトも多いですから、プレミアムエコノミーで往復することができれば、とても助かりますね。

プレミアムエコノミーは、航空会社によって名称もサービスの内容も異なりますし、保険会社によっても対象となるかどうか扱いが異なってくると思いますので、保険金の対象となるのかどうか、あらかじめ加入している保険会社に確認しておいたほうがいいかもしれません。

日本国内の交通費

日本に帰国した後、日本国内の交通費は、社会通念上妥当な金額であれば対象となります。その範囲内がどこまでか、ですが、私たちのときは、不幸があって葬儀なども終わってからの帰国となったのですが、次のとおりでした。

  • 成田空港-羽田空港-地方空港への移動 リムジンバス、国内線航空券
  • 地方空港-実家への移動 JR、バス
  • 実家-お寺の移動 バス、タクシー
  • 実家-空港付近のホテルへの移動 バス、JR
  • 空港付近のホテル-地方空港への移動 タクシー
  • 地方空港-羽田空港-お台場のホテル 国内線航空券、リムジンバス
  • お台場のホテル-成田空港 リムジンバス

不幸があって帰国した時に、普通に移動するであろう経路であれば、保険金の対象となります。

移動手段についても、社会通念上妥当な範囲内であれば、バスやJRといった交通手段があったとしても、タクシーの利用が可能です。

例えば、お寺への移動はバスでは不便なのでタクシーを使ったのですが、妥当な範囲だと思います。しかし、空港付近のホテルと空港への移動は公共交通機関も不便ではありませんでした。このときは、荷物が多く、また、朝のフライトということもあったので、タクシーを利用したのですが、社会通念上妥当な範囲として、保険金は支払われました。

なお、JRやバスといった公共交通機関を利用したときは、移動区間がわかれば料金は一律となりますので、領収書の添付はなくても大丈夫です。特に路線バスを利用する場合、領収書やレシートがないときもありますが、領収書を添付する必要はありませんので、忘れずに請求しましょう。

日本国内の宿泊費

日本国内での宿泊費も、社会通念上妥当な範囲内であれば、14泊を上限として認められます。葬儀の関係で葬儀場の近くに宿泊するのであればわかりやすいのですが、それ以外でも社会通念上妥当な範囲であれば大丈夫です。

私たちのときは、基本的に実家に滞在することができたのですが、移動の関係で空港近くのホテルに宿泊せざるを得なかったのでそこで1泊しました。また、保険会社に提出するための戸籍謄本を手に入れる必要があったのですが、本籍のある港区役所に行く必要があったことと、フライトスケジュールの兼ね合いから、お台場のホテルに2泊しましたが、いずれも保険金の対象となりました。

では、1泊あたり、いくらまでが社会通念上妥当な範囲となるのでしょうか。

当時、保険会社に確認したところでは、1泊3.5万円程度なら、というお話でした。このため、地方ではハイアット系列のホテルに宿泊し、1泊3.5万円でした。また、お台場ではニッコーホテルに宿泊しましたが、1泊目が2.5万円、2泊目が4.5万円となる状況だったのですが、1泊平均では3.5万円ですから、大丈夫でした。

とはいえ、宿泊料と国内交通費の合計で、上限は20万円となりますので、高級ホテルに何泊もするということはできません。

どのような旅程が対象となるのか

緊急一時帰国費用ですから、不幸があってから7日以内に日本に帰国する旅程が保険の対象となります。必ずしも葬儀や通夜といったものに出席する必要はありません。私たちは、祖母の不幸の1ヶ月ほど前に、そろそろだということで自腹で一時帰国して、気持ちの整理をしていました。このため、訃報を聞いてから、落ち着いて、自分たちの都合に合わせて帰国してお参りすることができました。

まとめ

緊急一時帰国費用特約は思ったよりも適用される場面が少ないのですが、いざというときには、親族との関係などしがらみもあり、帰国しないという選択肢はあまりないと思います。家族で一時帰国するとなると、交通費や宿泊費でかなりの支出となってしまいます。

私たちの時も、日本に往復する航空券も含め、家族全員で100万円近い出費となりましたが、その全てが保険でまかなわれましたので、とても大きな支えとなりました。

このため、一時帰国に必要となる大きな負担を避けるためには、緊急一時帰国費用特約は是非とも付帯しておきたいですね。